Strongly Correlated Materials Research Group強相関材料物性研究グループ

研究テーマおよび業務

  1. 中性子・放射光を利用した強相関電子系の研究
  2. 中性子を利用した各種機能性材料の評価技術の開発
  3. 偏極中性子利用技術などの各種中性子散乱法の高度化に関する開発研究
  4. JRR-3に設置されている中性子分光器の維持・管理
  5. JRR-3で行われる施設供用実験の利用者支援
  6. JRR-3の実験試料環境の整備

グループリーダー
樹神 克明

研究内容

強相関材料物性研究グループは、量子ビームの中で、特に中性子と放射光を利用し、強相関電子系を中心に様々な物質が持つ性質・機能の発現機構を明らかにする研究を行っています。そのために、研究用原子炉JRR-3の炉室に設置されている高分解能粉末中性子回折装置HRPD(詳細情報) 三軸型中性子分光器TAS-1、三軸型中性子分光器TAS-2、ビームホールに設置されている三軸型中性子分光器L-TAS(詳細情報)、多目的単色熱中性子実験ポートMUSASI(詳細情報)、 偏極中性子反射率計SUIREN(詳細情報) という多数の中性子散乱装置の維持管理、施設利用実験者の利用支援を行っています。それとともに偏極中性子散乱法に代表される各種中性子散乱法やデータ解析手法、さらに特殊環境を含む試料環境装置の高度化にも積極的に取り組んでいます。

また、J-PARCセンターと協力し、J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)に設置されているチョッパー分光器(四季、アマテラス)、高強度全散乱装置(NOVA)、単結晶回折装置(千手)、超高分解能粉末回折装置(SuperHRPD)、偏極中性子反射率計(写楽)などを利用した研究を進めています。

TAS-1
TAS-2
L-TAS
HRPD

グループメンバー

氏名 役職 担当装置 専門分野
樹神 克明
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グループリーダー JRR-3 HRPD 磁性、強相関電子系、中性子回折、磁気共鳴
金子 耕士
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マネージャー JRR-3 TAS-1, LTAS 磁性体、強相関電子系、材料科学、中性子散乱、X線散乱
目時 直人
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研究嘱託 JRR-3 MUSASI 固体物理学
盛合 敦 技術主幹 JRR-3 SUIREN
山本 和喜 技術主幹
井川 直樹
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研究専門職 JRR-3 HRPD 材料科学、中性子回折
下条 豊 技術副主幹
久保田 正人
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研究副主幹 JRR-3 TAS-2 物性物理、材料科学、中性子散乱、共鳴X線散乱
山内 宏樹
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研究副主幹 JRR-3 LTAS, MUSASI 固体物性、中性子散乱、高圧
萩原 雅人
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研究系職員 JRR-3 TAS-2 磁性、強相関電子系、磁気構造解析
佐々木 未来 技術系職員
生田目 望 技術系職員
小澤 淳 派遣
田端 千紘
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研究系職員 JRR-3 TAS-1 強相関電子系、中性子回折、X線回折

論文について

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最近の研究成果

4f電子系化合物EuPtSiで実現する磁気スキルミオン格子~JPSJ 2020 Highly Cited Articleを受賞

物質科学研究センター多重自由度相関研究グループの金子研究主幹によるEuPtSiの磁性に関する研究論文が、日本物理学会誌(JPSJ)において、掲載された年の翌年1年間の被引用数が多い論文10報に与えられる賞「JPSJ 2020 Highly Cited Article」を受賞しました。
本研究はf電子化合物において世界で初めて磁気スキルミオンが格子を組んでいる様子の観測に成功した成果であり、様々な物質においてスキルミオン格子が実現している可能性を示しました。

Kaneko et al., J. Phys. Soc. Jpn.88, 013702 (2019).
中性子散乱で捉えたスキルミオン格子に特徴的な散乱パターン

伝導電子スピンの奇妙な「短距離秩序」を世界最高温度で発見-新物質Mn3RhSiで新しい金属状態が実現-

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構物質科学研究センター・多重自由度相関研究グループの山内宏樹研究副主幹、一般財団法人総合科学研究機構中性子科学センターの社本真一サイエンスコーディネータ、国立研究開発法人理化学研究所仁科加速器科学研究センターの渡邊功雄専任研究員および芝浦工業大学理工学研究科地域環境システム専攻のディタ・プスピタ・サリ博士研究員(現: 工学部助教)らのグループは、原子力機構が世界で初めて合成した空間反転対称性を持たない金属磁性体の新物質Mn3RhSiにおいて、伝導電子スピンの一部が短距離秩序化し常磁性相内で相分離した奇妙な状態が720 K (447℃)という世界最高温度で実現していることを中性子とミュオンを相補的に用いた観測で発見しました。
磁性体において、常磁性相では電子のスピンは方向がバラバラな「無秩序状態」であり、低温で相転移して反強磁性が現れると、スピンが物質全体で反平行に一様にそろう「長距離秩序」状態となります。一部の金属磁性体では、常磁性の相内で部分的に「秩序」状態がおこる、伝導電子のスピンの奇妙な「短距離秩序」が、通常の金属には見られない性質として観測されてきました。しかし、その起源はよくわかっていません。
空間反転対称性の破れを起源のひとつと考え、それを検証するための新物質として、空間反転対称性がないMn3RhSi(マンガン3-ロジウム-シリコン)を世界で初めて合成しました。Mn3RhSiを中性子とミュオンを相補的に用いて観測した結果、720 K(447℃)という世界最高温度の「伝導電子スピンの短距離秩序」を発見しました。
この発見により、これまで起源が未解明だった「伝導電子スピンの短距離秩序」の理解へつながることが期待されます。また、この新しい金属状態で、特異な磁場依存性など未発見の新現象が見つかる可能性が期待されます。

Yamauchi et al., Commun. Mater. 1, 43 (2020).
左: 合成に成功した新しい金属磁性体Mn3RhSiの多結晶の写真。
右: (a) 中性子回折で観測されたQ = 1.7 Å-1付近にピークを持つ磁気散漫散乱の積分強度の温度依存性。
(b) ミュオンスピン緩和から得られた常磁性相中の短距離磁気秩序成分の体積分率。

アルミでコンピュータメモリを省電力化する~アルミ酸化膜を用いた新しい不揮発メモリの動作メカニズムを解明~

物質科学研究センター・多重自由度相関研究グループの久保田正人研究副主幹、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の加藤誠一主任研究員、児子精祐外来研究員及び高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の雨宮健太教授らの研究グループは、次世代不揮発メモリの材料として期待されるアモルファスアルミ酸化膜において、半導体メモリのまったく新しい動作メカニズムを説明する電子状態変化を世界で初めて直接観測でとらえました。放射光X線を用いて、アモルファスアルミ酸化膜の構成元素である酸素とアルミニウムの吸収スペクトル測定を行いました。
現在、世界で広く使用されているコンピュータの主記憶メモリ「DRAMディーラム」は、揮発性のため電力消費が大きいという問題を抱えています。そこで、その問題を克服できる次世代不揮発メモリとして、遷移金属を用いた「ReRAMアールイーラム(抵抗変化型不揮発メモリ)」が盛んに研究されています。しかし、メモリ動作時の化学変化により副生成物が生じるために耐久性に問題を抱えています。アモルファスアルミ酸化物の酸素空孔への電子の出入りがエネルギー的に安定して行えるという理論的予想を踏まえ、本研究では、アモルファスアルミ酸化膜を用いて新しい不揮発メモリ動作のメカニズムを解明するために放射光実験を行いました。
その結果、オン・オフのメモリ動作により、酸素サイトの電子状態が変化することを直接観測でとらえました。また、アルミニウムサイトの電子状態は変化せず、化学変化が生じていないことを明らかにしました。これらの結果は世界初です。アモルファスアルミ酸化膜を用いたReRAMは、化学変化による劣化が起こらないので、既存のDRAMの消費電力問題の解決やDRAM並みの耐久性の向上が期待されます。また、酸素空孔の電子の出入りの原理を応用した新規電子デバイス材料の開発が期待されます。 Kubota et al., AIP Advances 9, 095050 (2019).