HRPD高分解能粉末中性子回折装置

粉末や多結晶試料の結晶構造や磁気構造の決定

HRPD (High Resolution Powder Diffractometer)
高分解能粉末中性子回折装置

測定対象 : 電池材料、鉄鋼材料、セラミックス、無機化合物、ガラス材料など
測定試料例: イオン伝導体、鉄鋼材料、セラミックスなどの結晶構造、磁性体の磁気構造、ガラス物質の構造変化など

概要

HRPDは粉末試料の中性子回折データを取得するための装置です。64本の中性子検出器が回折角2.5°の間隔で配置されており、回折角2.5°から162.5°の領域の回折データを得ることができます。通常使用する中性子の波長は1.82 Åで、上記の回折角は波数領域にして0.3 < Q < 6.8 Å-1に対応します。この波数はオングストロームからナノメートルの実空間スケールに相当するため、物質の結晶構造や原子核密度分布(正確な言い方をすれば、中性子散乱長の分布)を精度良く決定することが可能です。特に中性子が水素やリチウムなどの軽元素に敏感であることを利用して、リチウムイオンバッテリーの正極材料や燃料電池の固体電解質材料に用いられるイオン伝導性物質について、リチウムイオンや水素イオンの占有位置や伝導経路を調べる研究が進められています。さらに中性子の磁気散乱を利用した、磁性体の磁気構造を調べる研究も行われています。

装置詳細

中性子源 熱中性子源
モノクロメーター Ge 331
中性子波長 λ = 1.82 Å
3He検出器 6 atm-3He検出器、64本、2.5°間隔

試料環境

4 K冷凍機(-269℃ ~ 30℃)
真空電気炉(30℃ ~ 600℃)
試料交換機(室温)

測定例

  • イオン伝導体は電子ではなくイオンの移動によって電気伝導が発現する物質で、特に水素やリチウムのような軽元素イオンが伝導する物質は、リチウムイオンバッテリーの正極材料や燃料電池の固体電解質への応用が期待されています。イオン伝導性はその物質の結晶構造に依存します。そのためイオン伝導性を示す物質の結晶構造を決定し、さらにイオンが結晶中のどこを伝導しているのかを調べることが、より高いイオン伝導性をもつ物質を得るうえで重要になります。図1はHRPDで測定したリチウムイオン伝導体LiCo1/3Mn1/3Ni1/3O2の回折データです。このデータに対してリートベルト解析および最大エントロピー法解析を行うことによって決定された原子核密度分布を図2に示します。左図のように1 fm/Å3の単位で核密度分布をみると、それぞれの原子は結晶格子点上にいることがわかります。これを右図のように0.05 fm/Å3の単位まで拡大してみると、各原子のうちLiだけが2次元的に分布しており、これが結晶中のLiイオンの伝導経路に対応していることがわかります。X線回折でも結晶構造解析は可能ですが、Liのような軽元素を検知することが難しく、さらに原子核ではなくその周りの電子の分布を観測します。この結果は中性子の軽元素感受性と原子核による散乱という特性を生かすことで得られたものです。

    (Igawa et al., J. Am. Ceram. Soc. 2010)
    図1 LiCo1/3Mn1/3Ni1/3O2の回折データ
    図2 LiCo1/3Mn1/3Ni1/3O2の核密度分布

関連資料

装置利用や課題申請について