Advanced Energy Materials Research Groupエネルギー材料研究グループ

研究テーマおよび業務

  1. 放射性廃棄物のエネルギー資源化に関する研究
  2. エネルギー分散型XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)による局所構造、電子状態の時分割及び精密測定
  3. PDF(Pair Distribution Function)による短距離、中距離、長距離構造の階層構造と物性
  4. 表面X線回折による界面における電気化学反応
  5. X線及び中性子の非弾性散乱による原子振動、スピン密度波と物性
  6. マルチフェロ物質等、機能性材料の合成と評価
  7. 材料表面・界面の科学
  8. 高輝度XAFSによる局所構造および電子状態測定
  9. 放射光計測技術(X線回折法、小角散乱法、イメージング法など)を用いた材料評価技術の開発と応用
  10. 放射光を利用した工学材料のひずみ・応力測定技術の開発と応用
  11. マルチスケール構造解析によるガラス固化技術高度化支援

グループリーダー
吉井 賢資

研究内容

エネルギー材料研究グループでは、主にSPring-8の放射光を利用して、エネルギー材料や先端機能性材料の開発や機能解明に関する研究を行っています。このような目的には、原子レベルからミクロンレベルの幅広い空間スケールで起こる現象の観察が必要となります。さらには、材料が動作している条件(オペランド)、ガスなどにより固体表面・界面での化学反応が進んでいる状況、また、材料が応力を受けて変形している状況などを、リアルタイムで測定することが重要な情報を与えます。このため我々は、3本のビームライン設置された様々な装置を用いるとともに高度化に取り組んでいます。目的によっては中性子を用いることで、放射光と相補的な情報を得ることも行っています。さらには、施設供用制度などを利用し、大学や産業界との連携も積極的に行っています。

BL22XUにおいては、高輝度XAFS装置、硬X線光電子分光装置(HAXPES)、カッパ型X線回折装置、応力・イメージング測定装置が設置されています。高輝度XAFS装置では、希土類などの分離錯体の局所構造の観測を行っており、最近では都市鉱山からのプラチナ回収に関する結果を報告しました。HAXPES装置では、界面などの電子状態を分析することができ、半導体接合や熱電材料などの界面の電子状態の観測を行っています。カッパ型X線回折装置では、誘電体の局所構造(PDF)の測定、また、イオン液体などの界面構造を電圧下で測定するなどの測定を行い、構造と物性の相関の解明などに取り組んでいます。応力・イメージング装置では、レーザー照射下などにおける金属材料などの溶融変形などをリアルタイムで観測し、材料の安全性担保に寄与する結果などを発表しています。また最近では、放射性廃棄物をエネルギー資源化する研究を開始しました。放射光を廃棄物からのガンマ線に見立てて照射し電気エネルギーへと変換させる試みを行うとともに、材料の電子状態や結晶構造の変化を観測し、放射線に強い材料の開発を行っています。

BL23SUにおいては、表面化学ステーション、磁気円二色性測定装置などの装置が設置されています。表面化学ステーションでは、超高真空下での清浄表面の作製、放射光軟X線によるリアルタイム光電子分光、超音速分子線などを用いて機能性材料や福島環境試料の表面状態・反応の観察を通して表面科学の進展に貢献しています。磁気円二色性測定では、強磁性を示す希土類化合物の電子状態・スピン状態の精密測定を行っています。

また、量子科学技術研究開発機構の有するビームラインBL14B1においては、時分割XAFS装置が設置されています。ここでは、燃料電池のオペランド下での電子状態や局所構造の測定などを行い、新規材料の開発などに取り組んでいます。

これらのエネルギー材料・機能性材料の研究を並行し、東日本大震災以来、福島復興に貢献するための土壌(粘土鉱物)へのセシウムの吸着メカニズムの研究や、原子力関連施設の安全性向上のための水素爆発を防止する再結合触媒の開発など、原子力の環境・安全に関連した研究を積極的に推進しています。

グループメンバー

氏名 役職 担当装置 専門分野
吉井 賢資
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グループリーダー 硬X線光電子分光測定装置 放射光分光、磁性
松村 大樹
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マネージャー エネルギー分散型XAFS測定装置 X線吸収分光、触媒
米田 安宏
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研究主幹 カッパ型回折計 X線結晶学、誘電物性
吉越 章隆
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研究主幹 BL23SU 表面ステーション(SP8) 放射光科学、光電子分光、表面科学、材料プロセス学
斎藤 祐児 研究主幹 BL23SU光学系 軟X線固体分光
田村 和久
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研究主幹 カッパ型回折計 電気化学、表面構造解析
福田 竜生
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研究副主幹 硬X線光電子分光測定装置 X線・中性子非弾性散乱、時分割回折、固体物性
塩飽 秀啓
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技術専門職 XAFS測定装置 XAFS、X線光学、放射光医学応用
辻 卓也
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研究系職員 エネルギー分散型XAFS測定装置 X線吸収分光、粘土科学
冨永 亜希
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技術系職員 BL全般、保守管理 X線小角散乱・回折、応力ひずみ、反応物理化学、ナノ材料科学、量子ビーム科学、無機材料、物性、複合材料、界面
津田 泰孝
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研究系職員 BL23SU表面ステーション(SP8) 光電子分光、表面反応
深田 幸正 研究系職員 固体物理
西畑 保雄 研究嘱託 X線結晶学
千葉 大輔 特定課題推進員

論文について

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最近の研究成果

放射性廃棄物のエネルギー資源化などを実現する新規機能性材料(先端基礎研究センター、電子構造物性研究グループ、量子科学技術研究機構、東北大学、東京大学、日本電気(株)との共同研究)

スピントロニクス薄膜Pt/Y3Fe5O12熱電素子が重粒子線照射に耐性があることを発見しました。これは放射性廃棄物のエネルギー資源化に有望です。放射光硬X線光電子分光により、照射量の大きい場合の特性劣化は界面でのY3Fe5O12の変質によることが示唆されます。

図 Pt/Y3Fe5O12熱電素子の酸素の硬X線光電子分光スペクトル

セシウムの土壌への吸着メカニズム

粒径の異なる黒雲母中でのCs吸着構造をXAFSにより明らかにした。その結果粒径が小さくなるにつれDebye-Waller因子が大きくなり、Cs吸着構造のばらつきが大きくなることがわかった。

吸着されたCsの原子間距離とデバイ・ワラー因子の粒径依存性

連続XAFS測定による金属微粒子触媒の微細構造変化観測

金属微粒子は、その比表面積の大きさから、排ガス浄化用自動車触媒など多くの実用触媒に使用されています。触媒が実際に働いている「その場」条件下において触媒自身の構造を観測することは、新たな触媒開発の大きな助けになります。本研究のアプローチとしては、XAFSの連続測定を高度化することで、反応中の触媒の微細な構造変化を探ろうとしています。XAFSは、物質中の特定の元素に特化した構造情報を得ることが出来るユニークな手法です。図では、アルミナ担持パラジウム金属微粒子に対して、「その場」連続XAFS測定を行った例を載せてあります。2Hzという連続測定レートながら、最近接原子間距離の相対精度は100fmに達しており、微細な構造変化も検出されていることが解ります。このような高い相対精度を持った手法の実現により、反応中の触媒の微細構造変化を見出し、反応機構をより深く理解し、新規触媒開発へのフィードバックを行っていきたいと考えています。

金属Pd微粒子に対する連続XAFS測定例

PDF(2体相関分布関数法)を用いたナノスケール構造解析

強誘電体、圧電体、超磁歪材料、形状記憶合金などの機能性材料はドメインを介した物性発現機構を持っています。このような物質群においては従来の周期性を仮定した平均構造解析では、ドメイン内部の構造がわかりません。そこで、単位格子程度のミクロ構造領域からドメイン構造までをシームレスにつなぐナノスケールオーダーの構造を得る手法としてPDF解析があります。

図は非鉛強誘電体として利用されているBi0.5Na0.5TiO3のナノスケール構造解析から得られたBi/Naのネットワーク構造を示しています。このようなナノスケールレンジの構造は機能性材料だけでなく、原子力材料にも適用されつつあり、現在、長寿命核種の半減期を短縮させるADS変換MA燃料の開発のために模擬物質を使った評価が行われています。

Bi0.5Na0.5TiO3の結晶構造

電極/電解液界面の構造を調べる

電池は、電極/電解液界面(電極と電解液の境界)での電子移動(電子のやり取り)を利用しています。従って、充電・放電中に電極/電解液界面で何が起きているかを詳しく調べることは、電池性能を向上するためには重要となります。そこで、放射光を用いた電極/電解液界面の構造を解析する手法を開発すると共に、様々な界面の構造を明らかにしています。図は、次世代の電解液として注目されているイオン液体と金電極表面の構造が、電極にかける電圧に対してどのように変化するかを示したものです。電極に電圧をかけても小さな電流しか流れなく、反応はほとんど起きていませんが、電極表面の構造は、大きく変化していることが分かりました。この結果は、これまでに知られている水溶液中での結果とは大きく異なっており、電解液の性質が電極表面の構造に対して大きな影響を与えることを示しています。

図 中性子反射率測定から得られた電気二重層の構造

鉄系超伝導物質の磁性と格子振動との相関──X線非弾性散乱実験と第一原理計算(大阪大学、理化学研究所、J-PARCセンターとの共同研究)

蛋白質の柔らかさや固さは、環境に影響を受けるダイナミクスに反映される。蛋白質の低エネルギー振動スペクトルの特徴の一つである、ボソンピークは、低温や乾燥状態における蛋白質構造の固さの指標となる。この論文では、中性子非弾性散乱と分子シミュレーションによって、ボソンピークと体積についての水和,温度,圧力効果を調べた。水和,加圧,低温はボソンピークを高エネルギー側にシフトさせ、強度が小さくなり、またキャビティが小さくなった。しかし、このような効果は水和蛋白質にはあまり見られなかった。体積の減少は固さの増加を意味し、これがボソンピークシフトの起源である。ボソンピークはキャビティ体積で予測できる。この予測は、強い準弾性散乱のために実験的にはボソンピークが見分けられない場合に、非干渉性中性子散乱スペクトルにおける準弾性散乱の寄与を見積もるのに効果的である。

鉄系超伝導母物質FeSeの格子振動の分散関係における実験測定データと理論計算の比較(磁性考慮無し(左)と有り(右))

放射光リアルタイム光電子分光による機能性材料表面、界面が示す物理化学諸現象の解明

SPring-8軟X線ビームラインの持つ、輝度、エネルギー分解能、指向性などの特徴を最大限に活用して、放射性Csの粘土鉱物表面での吸着・脱離現象の解明、材料表面ナノプロセスの原子・分子レベルでの観察、環境およびエネルギーに関連する触媒材料表面の化学反応、材料の腐食・防食解析など産業応用上重要な機能性材料表面・界面が示す物理化学に関する基礎研究を実施しています。

放射光を利用した応力測定による成果が日本材料科学会論文賞を受賞

粗大粒を持つ材料のX線応力測定法として、2次元検出器と高エネルギー放射光を組み合わせた二重露光法(double exposure method:DEM)を提案しました。DEMの原理は、X線光軸の直線と回折斑点のビームを2点で測定して得た直接との2直線の関係から回折角と回折粒の位置を決定するものです。本研究では、DEMを用いて回折角と回折位置を計算するシステムを作成し、効率よく回折斑点の解析を行うことに成功しました。

【論文】「二重露光法による粗大粒材料の応力測定」鈴木賢治、城鮎美、菖蒲敬久、材料、第68巻、第4号、pp. 312-317(2019)

高エネルギーX線を駆使した微視的応力挙動解明で日本保全学会論文賞を受賞

本研究は、弾性異方性の大きいオーステナイト系ステンレス鋼が塑性変形を受けたときに、結晶方位による異方性による粒間のひずみがどのように平衡を保っているかを大型放射光施設SPring-8の高エネルギーX線を駆使して明らかにしたものです。結晶弾性異方性による微視的応力の挙動の原理を解明したことが、学術的に高く評価されました。 【論文】「Intergranular Strains of Plastically Deformed Austenitic Stainless Steel」Kenji SUZUKI and Takahisa Shobu, EJAM, Vol.10 No.4, p.9-17 (2019)

XAFSを利用した成果がAnalytical Sciences論文掲載号の表紙に採用、さらに論文誌の「Hot Article Award」を受賞

都市鉱山から重要な金属を回収する白金族金属精製において、Pd(Ⅱ)およびPt(Ⅳ)を含有する混合物からRh(Ⅲ)の効果的な回収は、最も困難な仕事の1つです。 今回、7Mおよび10M HCl水溶液に3,3‘-ジアミノベンジジン(DAB)を添加することによって、Rh(III)を効果的に分離できることを見出しました。 【論文】「Unique anion-exchange properties of 3,3’-diaminobenzidine resulting in high selectivity for rhodium(III) over palladium(II) and platinum(IV) in a concentrated hydrochloric acid solution」, Tomoya Suzuki, Takeshi Ogata, Mikiya Tanaka, Tohru Kobayashi, Hideaki Shiwaku, Tsuyoshi Yaita, and Hirokazu Narita, Analytical Sciences, 35(12), 1353 (2019)

レーザーコーティング技術確立のための時分割材料評価

放射光を利用した高速イメージング技術を用いて、レーザー加工のその場観察を行い、加工後の材料強度を評価することで、レーザー溶接技術の高度化に貢献しています。開発された高速イメージング分析技術は、レーザーコーティングにおける照射条件の最適化予測システムの検証に使用されました。

【概要】

  • 異種金属をレーザーコーティングする技術を確立し、高付加価値材料を生成。
  • 2mm以下の金属球の溶融凝固現象を1msecで観察する技術を確立。
  • アカデミック、エンジニアの視点から得られた技術を取り込んだ装置の販売

【今後の展開】

  • CPS 型製造を実現する次世代レーザー接合加工技術開発をはじめ、イノベーション創出に貢献。
  • 1F廃炉に関する、1) デブリの経年変化予測、2) レーザー切断技術実用化に貢献。

マルチスケール構造解析によるガラス固化技術高度化支援

使用済み燃料の再処理などによって発生する高放射性廃液の処分には、ベースとなるガラスに様々な種類の元素(廃液成分)を溶け込ませて、ガラス固化体を製造する技術が使用されます。物質科学研究センターでは、同センターが擁する放射光及び中性子分析技術を横断的に用いて、ガラス固化試料の構造を様々な手段、様々なスケールの観点から調べ、その健全性を評価する試みを進めています。この研究は、放射光分析技術開発グループが中心になり、物質科学研究センター内の環境・構造物性研究グループ、階層構造研究グループ、多重自由度相関研究グループが参加し、ガラス試料の調製と分析では核燃料サイクル工学研究所のガラス固化技術開発部の協力を仰いでいます。また、資源エネルギー庁の「放射性廃棄物減容化に向けたガラス固化技術の基盤研究事業」にも加わり、ガラス固化を操業するメーカーやガラス固化技術開発を進める研究機関や大学等と連携し、高度化へ向けて実効性のある構造情報を提供し続けています。