その他

高い金属分離機能と実用機能を両立した新規抽出剤の開発と溶媒抽出法の高度化

アクチノイド科学研究グループ
氏名下条 晃司郎

特許

● DODGAAについて特許第5035788号、特許第6108376号、特許第5299914号、特許第5392828号、特許第5487506号、特許第5499353号、特許第5569841号、 特許第5679158号、特許第5679159号
● TONAADAについて特許第6614654号、特許第6693646号、特許第6693647号、特許第6874266号

現在、金属資源の分離精製や有用金属のリサイクル技術として溶媒抽出法(図1)が幅広く利用されています。この手法は互いに混じり合わない2つの液相間における溶質の分配性の違いを利用した分離技術です。例えば、特定の金属と結合する抽出剤を含む有機溶媒に種々の金属イオンを含む水溶液を接触させると、抽出されにくい金属イオンは水溶液中に残留し、抽出されやすい金属イオンのみを選択的に有機溶媒中に移動させることができます。さらに有機溶媒中に抽出された金属イオンを別の水溶液を使って逆抽出することで、目的金属イオンを水相に回収し、有機相は抽出に再利用することが可能です。本技術は資源循環型経済(サーキュラーエコノミー)の構築およびSDGsを成し遂げるための重要な分離技術の1つです。金属分離の成否は抽出剤が大きな鍵を握るため、優れた機能を有する抽出剤を開発する必要があります。しかしながら、抽出剤に関する多くの学術研究や特許が報告されているものの、実用性に欠けるものがほとんどであり、金属分離の現場では、50年以上も前に開発された抽出剤が今もなお使用されています。見方を変えると、学術研究で得られた知見が実際の現場にほとんど活用されていないのが現状です。

図1 溶媒抽出法の原理

我々は『金属資源循環と環境保全』を目標に、社会実装を見据えた安価で高性能な新規抽出剤の開発を行っています。最近の例としてジオクチルジグリコールアミド(DODGAA, 図2)やテトラオクチルニトリロ酢酸ジアセトアミド(TONAADA, 図3)について紹介します。

① DODGAAについて

図2 DODGAAの抽出分離能

図2のように、DODGAAは希土類金属(レアアース)の分離が可能です。重希土に対して選択性を示しますが、特筆すべきは、隣接軽希土間(例えばNd/Pr)の分離に優れています。ジジム合金を原料としたNd廃磁石からNd(III)とPr(III)を分離し、純度99.9%のNd(III)を回収するには、先行技術で72段の工程を必要としますが、DODGAAを使用することで1/3の24段に低減することが可能です。

② TONAADAについて

図3 TONAADAの抽出分離能

TONAADAはDODGAAを改良した新規抽出剤で、様々な金属に対して高い抽出分離能を示します。(図3)

例えば、ITOや半導体の普及と共にInやGaの需要が拡大していますが、TONAADAはZnやAlからInおよびGaを選択的に分離できるため、亜鉛鉱床や産業廃棄物からInとGaを効率良く回収することが可能と考えられます。

さらに、リチウムイオン電池には正極材料の原料としてCoやNiが使用されており、Co, Niの益々の需要が予想されています。原料の安定確保のため、インドネシアで採掘される低品位のNi中間体の精錬技術や使用済みとなった大量のリチウムイオン電池廃棄物のリサイクル技術が望まれています。TONAADAは卑金属に比べCoとNiに高い選択性を有するため、Co, Niの分離回収に利用できると期待されます。

また、白金族金属は排ガス触媒や電子機器などに使用されていますが、これらの2次資源からPd, Pt, Rhのような高価な白金族金属の回収にTONAADAが利用可能と考えられます。

さらにScは希土類金属の中で最も高価な金属ですが、全希土類金属を含む混合液からScのみを1回の抽出操作で分離回収が可能です。

これらDODGAAやTONAADAは高い抽出分離能を有するだけでなく、下記のような社会実装に求められる性能を満たしています。

より詳しい内容はJST新技術説明会での発表資料および動画を参照ください。

我々は、研究成果の普及、社会貢献、イノベーション創出のため、民間企業との連携を推進しております。抽出剤は有償ではございますが提供可能です。ご興味のある方は下記まで気軽にお問い合わせ下さい。

下条 晃司郎 (shimojo.kojiro@jaea.go.jp)