SANS-J, PNO中性子小角散乱装置、精密中性子光学装置

ナノからマイクロメートルに渡る物質の階層構造を観察する装置

SANS-J (Small-Angle Neutron Scattering)
中性子小角散乱装置

PNO (Precise Neutron Optics)
精密中性子光学装置

測定対象 : 有機材料、無機材料、生物試料
測定試料例: 高分子溶液、生体物質における分子の凝集・相分離構造、金属、鉄鋼中におけるナノ構造物、超伝導体における磁束量子、スキルミオンなど

概要

SANS-Jは、試料から散乱された中性子のうち散乱角0.001°から30°の領域 (0.003 nm-1 < < 6.0 nm-1)を精度良く計測する装置です。この散乱角は、ナノからマイクロメートルの実空間スケールに相当するため、物質の階層構造を明らかにすることが可能です。階層構造を知ることは、それぞれの物質が示す特徴や機能発現のメカニズムを理解することに繋がるため、様々な場面でその重要性が高まっています。高分子、無機材料、磁性材料等、幅広い研究テーマが取り扱われており、その利用は多岐に渡っています。また、核燃料物質(ウラン、トリウム)を試料に扱えるため原子力科学に関連する多くの研究開発が進められています。
さらに、SANS-Jの特徴として偏極中性子ビームとして利用できる点が挙げられます。近年では、この特長を生かした測定手法として「動的核スピンコントラスト法」の開発が進められています。本手法は、入射中性子線のスピンとソフトマテリアルの主成分である水素の核スピンを制御して構造解析を行うもので、従来の重水素ラベルとは異なり、試料を重水素化することなく多成分で構成される複合材料の構造を成分毎に決定する技術として注目を集めています。

PNOは、最小散乱角2 × 10-4°(Q = 0.0002 nm-1)までの極小角散乱を測定することにより、数百 nmから数十 ㎛までの構造を決定する装置です。SANS-Jと併用することにで、より広い範囲の構造情報を得ることができます。

装置詳細

SANS-J

中性子源 冷中性子源
(液体水素モデレーター20 K)
モノクロメーター 速度選別器
(透過率75%、波長分解能15%)
中性子波長 λ = 0.65 nm
光学機器 中性子レンズ
偏極ミラー
偏極アナライザー
3He検出器(Qレンジ) 前面検出器(1 - 6 nm-1
主検出器(0.02 - 2 nm-1
フォトマル検出器(0.003 - 0.05 nm-1

PNO

中性子源 熱中性子源
モノクロメーター シリコン結晶3回反射
中性子波長 λ = 0.2 nm
光学機器 超精密制御回転ステージ
検出器 3He検出器

試料環境

サンプルチェンジャー(0 - 100℃)-J
常電導マグネット(1 T)
超電導マグネット(10 T)
引張試験器(5 kN)

測定例

ブロック共重合体は、全体の分子量と各ブロック鎖の分子量比に応じて様々な周期対称性を持つミクロ相分離構造を形成します。従来そのミクロ相分離構造は、ブロック共重合体が溶解した溶液をゆっくりと乾燥させる溶媒キャスト法によってつくられてきました。ところが、フォトニック結晶に用いる分子量が大きなブロック共重合体(約30万以上)では、高分子鎖どうしの強い絡み合いにより構造緩和が阻害されるため、周期性の高いミクロ相分離構造をつくらせることは難しいとされてきました。これに対して本研究では、重合後ではなく分子量がまだ小さい重合の初期段階でミクロ相分離を起こさせる重合誘起相分離法を考案しています。スチレンモノマー溶液中で、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の反応活性末端からポリスチレン(PS)鎖を重合すると(図1a,b)、反応生成物であるブロック共重合体(PMMA-block-PS)はある分子量を境に自発的にミクロ相分離を引き起こして周期構造を形成します(図1c)。ミクロ相分離後もさらに重合を進行させると、PS鎖の成長に合わせて周期構造を変化させながらPMMAドメイン間の距離を拡大させ、サブミクロンスケールの周期構造を形成します(図1c-g)。図2は、このプロセスをSANS-Jでその場観察した結果で、実際に図1のスキームに従ってフォトニック結晶がつくられることを確認しています。

(R.Motokawa, T.Kumada et al., Macromolecules, 2016)

関連資料

装置利用や課題申請について