Greetingセンター長挨拶

物質科学研究センターは、中性子線、及び、強力なX線である放射光を用いた最先端の測定手法の研究・開発を進め、それらを用いた物質・材料科学研究により物質の成り立ちや機能を明らかにする基礎基盤研究からそれらの知見を人々の暮らしに役立てる社会実装に至る幅広い研究を行っています。

中性子線と放射光は、共に物質を構成する微視的単位である原子や分子、電子と相互作用し、物質の原子・分子の構造や組成、それらの運動といった物質のミクロな様相を直接調べることのできるプローブです。両者は似通った測定手段でありながら、一方で、中性子は磁場やX線で見えづらい軽元素に対して感度があること、放射光は中性子では見えない電子の状態を観測することができることなど、両者の違いを組み合わせ、相補的に用いることで、より詳細な情報を得ることができます。

そのために、物質科学研究センターは、茨城県那珂郡東海村の原子力科学研究所(東海地区)と兵庫県佐用郡佐用町の大型放射光施設内の播磨放射光RIラボラトリー(播磨地区)、二つのキャンパスに拠点を構え、東海地区においては中性子源である研究用原子炉JRR-3に、播磨地区では放射光源であるSPring-8に、それぞれ独自の中性子線、及び、放射光を利用した複数の実験装置を開発、設置し運用しています。中性子利用、放射光利用のエキスパートとして、様々な研究目的に特化した中性子線と放射光の最新の測定装置、測定手法、データ解析技術を自身で開発しながら、それらを用いた自身の先導研究によって、中性子線や放射光でなければ明らかにできない物質の微視的構造やダイナミクス、それらが織りなして発現する機能や現象の解明を行っています。

東海地区のJRR-3は、東日本大震災以降、新規制基準への適合と耐震工事、性能向上を目的とした設備更新のため10年間にわたり停止していましたが、令和3年に再開を果たしました。物質科学研究センターでは、原子炉と共に停止していた実験装置の再立ち上げと整備を進め、利用研究を再開させ、既に再開後の短期間にも、物質内の磁性の起源に関わる基礎研究から電池材料や磁気デバイスなど社会に役立つ材料の研究に至るまで成果を挙げてきました。現在も、さらなる研究成果を生み出すため、最新の実験テーマに対応するための装置の高度化を進めています。

播磨地区では、我が国唯一となる核燃料物質も取り扱えるラジオアイソトープ(RI)実験棟を整備し、RIを含む物質の資源回収、環境回復に関する研究を進める他、福島第一原子力発電所の事故で急務となっている廃炉作業に不可欠となるデブリの性状把握の科学的研究へも取り組むために、近隣市町村の方々のご理解を得ながらデブリ試料の受入に向けた安全審査等を進めています。

物質科学研究センターでは、中性子線と放射光を利用した測定手法の専門家集団として、国内外の様々な研究機関とも協力しながら、その測定手法の高度化研究、技術開発とそれらを利用した物質・材料科学をはじめとする多様な分野の研究を進めて参ります。それにより、人類の知のフロンティア開拓とその成果の社会実装に邁進することで、JAEAが社会に果たすべき役割の一端を担い続けて参ります。引き続き物質科学研究センターから創出される成果にご期待いただくとともに、皆様のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

令和5年4月1日
センター長 中島 健次

センター長
中島 健次