Greetingセンター長挨拶

日本原子力研究開発機構 物質科学研究センターでは、研究用原子炉(JRR-3, 茨城県東海村)から得られる中性子線と、放射光施設(SPring-8, 兵庫県佐用町)で発生する強力なX線を活用し、物質・材料科学の最前線を探求しています。また、原子力科学をはじめ、エネルギー、ライフサイエンス、資源循環といった、幅広い分野において、基礎から応用・社会実装に至るまで多様な研究を展開しています。

物質や材料の微細な構造と原子・分子の動きを調べることは、その性質や機能がどのように現れるかを理解するうえで大変役に立ちます。中性子線と放射光は、こうした微細な状態を解析するための強力なツールであり、当センターでは、独自の実験装置の開発と運用を通じて先進的な研究環境を提供しています。また、JRR-3とSPring-8の両施設には、核燃料や放射性物質を安全に取り扱うための環境が整えられており、これが国内の他機関にはない当センターの大きな強みになっています。

中性子線は磁場の影響や軽元素に対する高い感度を持ち、放射光は電子状態の詳細な観測を可能にするなど、両者の特性を活かしたアプローチから、物質の構造や機能の根本的な解明に取り組んでいます。また、国内外の研究機関や大学と連携した学際的かつ国際的なプロジェクトにも多数参画し、研究のさらなる高度化を図っています。

当センターでは、企業との連携も積極的に進め、製品開発や品質向上に広く貢献しています。特にJRR-3では、年間30社以上の企業が中性子散乱装置を利用し、電池材料や高機能プラスチック、医薬品、食材、エネルギーデバイスなど、私たちの日常に直結する製品の研究開発を行っています。一方、SPring-8のRI実験棟(放射化物を取り扱う専用施設)では、大強度X線を活用した核燃料物質の研究が精力的に進められ、福島第一原子力発電所から採取された核燃料を含む残留物(燃料デブリ)の多角的な分析が行われています。これにより、原子炉内部の状態が正確に把握され、デブリ取り出し工法の選定や保管・処分技術の開発に寄与するデータが提供されることで、安全で迅速な廃止措置の実現に貢献しています。さらに、放射性物質の医薬利用に関する研究をはじめ、国内外の研究者に施設を広く開放することで、我が国の原子力科学研究を担う中核施設としての役割も果たしています。

現代社会は、これまでにないスピードで新たな技術や概念が次々と生み出され、変革を遂げています。人工知能やロボティクス技術の急速な発展とともに、科学技術に対する社会のニーズも刻々と変化しています。当センターは、世界に誇る最先端の研究環境を維持しながら、こうした変化に柔軟に対応し、JAEAが果たす社会的役割の一端を担い続ける所存です。

今後とも、皆さまのご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

令和7年5月1日
センター長 元川 竜平

センター長
元川 竜平